現金や株などで、何億円も資産のある方は別として、相続の対象となる財産は自宅の土地と家が大部分だという方も多いのではないでしょうか?この場合、法定相続に則り、遺産分割すると、残された配偶者の生活が破綻するという事態になりかねません。そこで、ここでは配偶者に効果的に遺産を残す方法の一つである、配偶者居住権について考えてみたいと思います。
配偶者居住権について
配偶者居住権は、相続開始時に亡くなった方が所有する建物に配偶者が居住していた場合、原則として終身の間、賃料の負担なく配偶者が使用・収益することを認める権利です。但し、以下の点に注意してください。
・所有者が第三者に売った場合などに配偶者居住権で対抗するためには登記が必要
・当該建物を被相続人と配偶者以外の人が共有で所有していた場合は設定できない
配偶者居住権の活用方法
配偶者居住権(土地の場合は敷地利用権)及びこの権利が設定された土地・建物の所有権は完全所有権と比較して、勝手に譲渡したり賃貸したりできない分、制約のある権利なので相続税評価額が低くなります。さらに婚姻期間が20年以上になると、配偶者居住権の遺贈があった場合は、遺産分割の際に、この価額を含めません。その分、被相続人に他の財産があった場合は、配偶者により多くの財産を残すことができ、結果として長生きリスクに対応することができます。
さらに配偶者居住権は配偶者が死亡した時に消滅するので、所有者は二次相続発生時(配偶者死亡時)に税負担なく完全所有権を得ることなります。但し小規模宅地等の評価減の特例(被相続人が相続発生の直前まで居住しており、相続人がその宅地を相続税の申告期限まで所有し、引き続き居住している場合は、330㎡まで80%評価額減額)を利用し、配偶者が完全所有権を得た方がいい場合もあります。この辺りはケースバイケースです。では具体的に見てみましょう。
配偶者居住権を使って配偶者の生活資金を増やす例
- 被相続人(夫) 相続財産 1)土地建物:4,000万円 2)預金4,000万円
- 被相続人 妻、子二人
- 配偶者居住権を設定しない場合
妻1/2 子1/4 の相続割合となるので(4,000万円+4,000万円=8,000万円)をその割合で按分すると、妻 4,000万円、 子それぞれ2,000万円ずつとなります。妻が仮に土地建物を相続した場合、金銭は残らず、生活資金に困るケースが出てきます。 - 配偶者居住権を設定する場合
配偶者居住権の価額を2,000万円、所有権を2,000万円とすると、配偶者は配偶者居住権2,000万円+2,000万円の現金を確保でき、生活資金に2,000万円あてがうことが出来ます。
(子2人は 土地建物の所有権2,000万円、預金残り2,000万円を分けます。) - さらに婚姻生活20年以上で配偶者居住権を設定する場合
配偶者居住権の2,000万円は含めず遺産分割するので、土地建物所有権(2,000万円)+預金(4,000万円)=6,000万円 を分割すると 妻3,000万円 子1,500万円ずつとなります。すると妻は最大3,000万円までの預金を確保することも可能です。
小規模宅地の評価減の特例を利用した場合
上のケースで小規模宅地の評価減を利用して、妻が相続する場合、土地建物評価額4,000万円×80%=3,200万円が評価減となり、土地建物評価額が4,000万円‐3,200万円=800万円となります。
土地建物800万円+預金4,000万円=4,800万円が相続税評価額となり、妻2,400万円(土地建物800万円、預金1,600万円)子1,200万円ずつの相続となります。妻は1.6億円まで、もしくは法定相続分までは相続税がかかりませんので、第一次相続の相続税としては抑えられます。
(注)計算を分かりやすくするため、相続税の基礎控除を考慮しておりません。
小規模宅地の評価減については下記参照ください。
https://fp-compass.com/blog/inheritance/2209/
まとめ
相続発生時に、残された配偶者が生活に困らないように、配偶者居住権について説明しました。また小規模宅地の評価減特例についても触れました。このような制度を活用し、有効な相続対策を検討してください。